会社経営が厳しい局面だと「人件費のカット」が頭によぎることもあるでしょう。実際のところ、人件費が企業活動を圧迫する大きな要因となっているケースも少なくありません。しかしながら、労働者に対する不利益な取り扱いは法令で厳格に規制されており、減給も簡単に実施することはできません。
ではどうすれば減給が可能となるのでしょうか。当記事では減給が認められるケース・認められないケースを紹介するとともに、適法な実施方法について解説していきます。
一方的な減給は原則禁止
経営状況が悪化したからといって、会社が勝手に賃金を減らすことは認められません。賃金は労働者にとって生活の原資となる重要な存在です。そのため労働法各種により一方的な不利益変更は原則として禁止されています。
たとえば労働契約法には次の規定が置かれています。
使用者は、労働者と合意することなく、就業規則を変更することにより、労働者の不利益に労働契約の内容である労働条件を変更することはできない。ただし、次条の場合は、この限りでない。
引用:e-Gov法令検索 労働契約法第9条
https://laws.e-gov.go.jp/law/419AC0000000128
減給が認められるのは例外的
「減給は原則として認められず、可能となるのは例外的な場合」という点はご留意ください。
しかし言い換えれば、会社からの要求により減給が認められるケースもあるということです。前述の条文でも但し書きにて例外があると明記されています。
経営状況が悪化している状態だと、無理にこれまででどおりの賃金を支払い続けることで倒産の可能性も出てくるでしょう。そこで、労働者の同意があるときや、減給に合理的な理由があって、正式な手続きを踏んで行われる場合などには、例外的に条件の不利益変更も認められます。
減給が認められるケース
次のようなケースでは、減給が違法とならず、認められる可能性があります。
| 労働者の同意を得た場合 | 労働契約法では「労働者と使用者の合意による減給」を認めている。減給によって不利益を受けるのは労働者であるため、その本人が同意をしているのなら不利益変更も可能。 ただし、本人による同意は「自由な意思」に基づいたものでなければならない。自由な意思に基づくか否かは、形式的に承諾したか否かだけでなく、①不利益の程度、②承諾の経緯や態様、③会社の説明の有無等の事情を踏まえて判断する。単に減額の合意書面があるというだけで充足されるものではないことに注意。 |
|---|---|
| 労働協約による変更 | 労働組合がある会社なら労働協約の変更により減給を行うことも可能。この場合には、個別の合意がなくても減給の効力が及ぶ。 |
| 就業規則の変更 | 就業規則を使っても不利益変更は原則禁止であるが、減給の事実を周知させ、かつ就業規則変更が合理的なら例外的に認められることもある。 ただし変更内容の合理性は、①不利益の程度、②変更の必要性(経営状況悪化の程度など)、③代償措置や経過措置の有無、④交渉の経緯などから評価される。 |
減給が認められないケース
上記のケースに該当する場合でなければ基本的には減給ができません。つまり、次に示す例の場合だと減給が違法と評価される危険性が高まります。
-
変更の背景に合理的理由がない
・・・「業績悪化」の事実のみで減給が正当化されるわけではない。業績悪化の程度や現状に至った背景、減給という措置の必要性、減給の程度などから、客観的に合理性が認められなければならない。 -
労働者に対する説明が不十分
・・・労働組合等との交渉や労働者への説明など、手続きを適切に行い、納得を得ることも重要。会社が一方的に減給を決定し、十分な説明もなく押し付けるような場合は、仮に必要性自体があるとしても、否定される可能性が高くなる。 -
代償措置の検討がされていない
・・・減給に対する経過措置を設ける、あるいは役員報酬の減額などの代替措置の検討や実施も重要。
適法に減給を行うための手順
減給措置を適切な手続によらず強行してしまうと、後日賃金の支払い義務を課されたり損害賠償金を請求されたりして、かえって金銭的負担が増すおそれがあります。そのため次の手順に沿って、慎重に対応することをおすすめします。
- 1. 経営状況の分析
- 2. 役員報酬のカットなど代替措置の検討
- 3. 減給割合の検討
- 4. 労働者への説明
- 5. 個別の同意取得や就業規則の変更
- 6. 減給実施の通知
各手順の詳細を見てみましょう。
Step1.経営状況の分析
まずは会社の業績を分析し、財務状況などから、どの程度減給の必要に迫られているのかを判断しましょう。経営破綻に瀕している場合と単なる業績悪化の場合では、認められる減給の程度も異なります。
Step2.役員報酬のカットなど代替措置の検討
労働者の減給を行う前に、役員報酬のカットなど別の措置も検討すべきです。そもそも業績不振による減給に至る原因は会社の経営に負うところが大きく、その責任は労働者というより役員にあるとも考えられます。
そのため、役員報酬のカットは適法性を担保する意味でも重要ですが、労働者から納得を得るためにも重要といえます。
Step3.減給割合の検討
業績不振による賃金カットに関して、明確に上限を定めた規定はありません。個別の事情に応じてその額が合理的かどうかを判断しますが、あまりにも大きな減額率だと無効と判断されるリスクが高まります。
なお、懲戒処分として行う減給に関しては労働基準法に規定が設けられており、そこでは「減給の制裁は賃金総額の10%まで」とあります。業績不振を理由とするケースに適用されるものではありませんが、10%以上の変化は不利益の程度が非常に大きいという法律上の考えも参考にすると良いでしょう。
Step4.労働者への説明
労働者や労働組合に対して、十分な説明を行うこと、協議を行うことが求められます。会社がその必要性や背景に関してしっかりと説明し、納得を得て進めるよう努めましょう。
説明すべき事柄としては以下が挙げられます。
- 賃金減額を実施することになった経緯
- 賃金の減額で対処する必要性
- 変更後の具体的な賃金
経緯について説明する際、「危機感を共有すること」を意識すると良いです。減額をしないとどうなってしまうのか、このままだと会社が存続することすら危ういという事情を理解してもらえれば不満も出にくくなります。
Step5.個別の同意取得や就業規則の変更
労働者の同意を得ること、あるいは就業規則の変更などにより減額を実施します。同意を取得するときは、後日問題を蒸し返されることを防ぐため、必ず書面に記録を残しましょう。
就業規則を変更するときは、労働組合または労働者の過半数を代表する者の意見書を取得すること、そして所轄労働基準監督署に就業規則変更届を提出することが必要です。





