お客さんからの暴言、不当な要求、場合によっては暴行や脅迫を受けることもあります。顧客至上主義を無理に貫こうとすると従業員に過大な負担を強いることになってしまい、危険から守ることも難しくなってしまいます。
そこで正当な主張をするお客さんとそうでないクレーマーを区別し、それぞれに正しい対処を採る必要があります。ここでは特にクレーマーについて紹介し、対処法も併せて解説をしていきます。
クレーマーとは
クレーマーとは、企業に対して執拗に抗議をしたり不当な要求をしたりする人物のことを指します。
本来的には「ある事実を主張する人」という意味を持ち、訴訟上の原告を指すようですが、現在においては特に悪質な苦情を寄せる者を表すことが多いです。
クレームとカスハラ(カスタマーハラスメント)について
「クレーム」とは、商品・サービス等に関する消費者からの不満のことであり、それ自体悪いものではありません。消費者の意見を取り入れてサービスを向上させるうえではクレームも有益な情報となり得ますし、企業はこれに誠意をもって対応していくことが大事です。
ただ、消費者の言い分に正当性がなく、不当な要求をしてくるケースもあります。過剰にこのようなクレームを受けていると仕事にも支障が生じますし、従業員が大きなストレスを抱えてしまいます。
こうした、社会通念上許容できない悪質なクレームは「カスタマーハラスメント」とも呼ばれ、現代における社会問題となっています。
※カスタマーハラスメントの略称が「カスハラ」。
なお、2020年1月に策定されたパワーハラスメント防止指針(令和2年厚生労働省告示第5号)ではカスハラを“顧客等からの著しい迷惑行為(暴行、脅迫、ひどい暴言、著しく不当な要求等)“と表現しています。
引用:厚生労働省「事業主が職場における優越的な関係を背景とした言動に起因する問題に関して雇用管理上講ずべき措置等についての指針(令和2年厚生労働省告示第5号)」
https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000605661.pdf
カスハラの実情
厚生労働省が実施したハラスメントに関する調査(2020年度)では、過去3年以内にカスハラに関する相談を受けた企業は2割近くあったことがわかっています。
相談を受けた実績はパワハラで約5割、セクハラで約3割であり、カスハラはこれらに次いで大きな問題ということがわかります。また、カスハラの件数が「減少している」よりも「増加している」と回答した割合の方が高いという結果も出ています。
そしてカスハラの具体的内容として割合多く発生しているのか「長時間の拘束」や「同じ内容を何度も繰り返す」といったタイプのクレームです。また、これに次いで多いのが「名誉毀損や侮辱、ひどい暴言」です。
このような行為を日常的に受けていては業務に支障をきたしてもおかしくはありません。そして従業員も精神的に大きな負担を負ってしまいます。割合は高くありませんが、過去3年間にお客さんから「脅迫」を受けた方も約15%、「暴行や傷害」を受けた方も約7%存在しているのは確かです。身体的な危険を伴うケースもありますので企業はクレーマーへの対処法について一度向き合う必要があるでしょう。
参照:厚生労働省「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」
https://www.mhlw.go.jp/content/11900000/000915233.pdf
クレーマーへの対処法
クレーマーにどう対処するのか、あらかじめ対策を立てておくべきです。従業員や経営陣、双方がクレーマーへの対処法を考えておきましょう。
従業員による現場での対応
従業員の方は、次項で解説するように、企業が策定した方針・手順に従って対応することが大事です。カスハラに関する企業の方針や相談窓口があること知り、具体的な手順についてチェックしておきましょう。
ただ、コミュニケーションを取る機会が多い仕事だとお客さんの態度や要求内容も千差万別で、常にルールに従った判断ができるとは限りません。また、カスハラにつながるクレーマーなのか、そうでないお客さんなのかもすぐに判別できるものではありません。そこで以下の対応を心掛けましょう。
- お客さんの言い分をよく聴くこと
- 商品やサービスに対するクレームがあったときは、まず、そのお客さんの言い分をしっかりと聴く必要がある。商品等についての不備があるときは、商品の交換や返品、修理、返金などの対応を検討する。
- 事実関係をはっきりさせる
- どこまで謝罪が必要で、どのような対応を取るべきかは、事実関係がはっきりしないと判断できず対応がブレてしまうこともある。そのためクレーム発生後は迅速に事実関係の調査を進める。
- できること・できないことは明示する
- すべての要求を呑んでしまうことで、さらに過剰な要求をしてくる可能性がある。また、前例を作ることで別のクレーマーがたかってくるおそれもある。そのため不当な要求にははっきりと「できない」旨を伝えることも大事。
- 相手の土俵に立たない
- 常習性のあるクレーマーだと争い方にも慣れており、相手を自分の土俵に誘い込むのが得意であるケースもある。侮辱するような言葉を浴びせられても感情的になってこちらも言い返したり手を出したりしてはいけない。また、クレーマーの自宅や事務所への訪問対応には特に注意が必要。恐怖の感情を逆手に過剰要求をしてくるリスクがあるうえ、危険も大きい。
企業による事前事後の対応
企業はカスハラの問題を重く捉え、現場で対応する従業員に任せず全社的な対策を進めることが大事です。
パワハラ防止に関しては企業に必要な措置を講ずる義務が課されていますが、現状、カスハラ防止はまだ法令上の義務にはなっていません。しかし、パワハラ等同様に取組みを行うことが重要である旨提示されていますので、以下の準備に取り掛かりましょう。
カスハラを想定した事前準備 | |
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基本方針等の明確化と従業員への周知・啓発 | ・経営陣がカスハラ対策に向けて、企業としての基本的な考え方や姿勢を取りまとめて、明示する。 ・カスハラから従業員を守ること、従業員の対応の在り方について周知し、啓発する。 |
相談対応体制の整備 | ・カスハラを受けた方が相談をできるよう、相談窓口と相談対応者を設置。その事実を広く周知させる。 ・相談対応者は相談内容や状況に応じて適切な対処ができるようにする。 |
カスハラへの対応手順の策定 | ・業務内容や業務形態、対応体制、方針などに合わせて対応方法を準備する。 ・さまざまなタイプのハラスメントに対応できるよう、例えば「〇〇の場合には退去を求める」「〇〇の場合には警察への通報を検討する」「〇〇の場合は音声を録音する」など、具体的な行動を定めておく。 |
社内対応ルールについての教育・研修 | ・クレーマーへの対応ができるよう、日ごろの研修などを通して教育を行っておく。 ・研修等はできるだけ全員に受講してもらうこと、そして定期的に実施することが大事。 |
カスハラが発生した後の対応も重要です。もしカスハラが発生したときは以下の内容に取り組みましょう。
カスハラが発生したときの対応 | |
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発生後の事実関係の確認 | ・カスハラに該当するかどうかを判断するため、お客さんや従業員から情報を集め、確かな証言・証拠に基づいて確認を進めていく。 ・事実確認の結果、自社に過失が認められるときは謝罪および交換・返金などに応じる。過失や瑕疵がないときは要求等には応じない。 |
従業員への配慮の措置 | ・何度も繰り返されるときは1人で対応させず複数人で対応するなど、メンタルヘルス不調にも配慮する。 ・カスハラ相談をしてきた従業員のプライバシー保護に必要な措置を講じる。また、相談を理由に不利益な取り扱いを行ってはならない旨の規則を設け、従業員に周知する。 |
再発防止のための取組み | ・同様の問題が発生しないように社内会議で情報共有する。 ・カスハラ事例ごとに検証を行い、新たな防止策を検討し、対応マニュアルや研修内容などを見直す。 |