コンプライアンスは、法令や社会規範、企業倫理に従うことを意味します。企業の社会的責任を果たす上で重要な概念であり、信用や評判を維持するためにはコンプライアンスの徹底が欠かせません。
ここで大きな役割を担うツールが「コンプライアンスマニュアル」です。
当記事ではこのコンプライアンスマニュアルについて、作成の方法などを説明しています。
コンプライアンスマニュアルとは
コンプライアンスマニュアルは、コンプライアンスをどのようにして徹底するのか、その方法をまとめたマニュアルのことです。
単に上層部が「コンプライアンスは大事」「コンプライアンスを徹底しよう」と伝えるだけでは、その実効性が十分に確保されません。従業員としては具体的にどのように対応していけば良いのかがわからないからです。
各々が法令や社会規範に沿った活動を試みて判断するのも大事ですが、行動が統一されていないと起こり得るリスクの予測が難しくなり、企業が統制を図るのも難しくなってきます。コンプライアンスマニュアルはこうした課題に対処するツールとして役立つものです。
作成の目的
企業が長く活動を続けていくには、社会からの信頼を得ることがとっても大事です。もちろん、提供するサービスや商品・製品など事業内容も大事な要素ですが、対外的な信用がなければ誰も相手にしてくれません。
提供すべき情報を偽装していたり従業員を違法に働かせていたり、他者に害を加えるような行為をしているとこの信用は失われてしまうでしょう。
最低限、法令に抵触する行為は避けるべきであって、さらに社会規範や企業倫理にも沿った活動をすべきです。法的に間違った行為をしていなくても悪い印象を持たれてしまうと信頼をなくし、売上の低下、利益の低下につながるおそれがあります。
コンプライアンスマニュアルは、こういった危険の発生を予防することや迅速に信頼を回復させることを目的に作成されます。
コンプライアンスマニュアルの作成方法
コンプライアンスマニュアルの作成は法令で義務付けられたものではありません。そのため作成するかどうかは各社の自由ですし、作成方法、記載内容についても自由です。
ただ、思いつくままに乱雑にルールを記載していったのでは社内マニュアルとして使い勝手が良くなりません。必要な内容がきちんと書けていること、そして従業員が目を通したときに内容を理解しやすいことに留意して作成を進めていくべきです。
以下で、その作成作業にあたって押さえておきたいポイントをまとめます。
マニュアルの作成体制を整備する
まずはコンプライアンスにかかる体制を整備すると良いです。特に規模の大きな企業の場合はチームを組んでおくことがおすすめです。
例えばある程度規模の大きなケースだと、代表取締役などを「コンプライアンス統括責任者」など定め、その下に「コンプライアンス委員会」、さらにその内部に「コンプライアンス委員長」と複数人の「コンプライアンス委員」を設置します。
この場合、主にコンプライアンス委員会がコンプライアンスマニュアルの作成作業などに対応し、社内の従業員、その上長とのやり取りなども対応します。
体制作りに決まりもありませんが、無理にオリジナルの体制を作る必要性がなければ、よくある枠組みを採用するのが効率的です。
もっとも、小規模な企業だとコンプライアンスに特化した委員会を設置することも難しいかもしれません。そのような場合は企業法務に強い弁護士に相談をするなど、社外の専門家や機関を頼りにコンプライアンスマニュアルの作成を進めていくと良いでしょう。
基本方針や理念だけでなく具体的な行動を考える
単に基本方針や理念を掲げるだけでは内容として不十分です。“マニュアル”というくらいですので、内容に具体性を持たせましょう。
ただし、作成過程において「基本理念、企業が大事にしていることを確認する」ということは大事です。そこを土台に「従業員や役員等はどうあるべきなのか、どのようなことが求められるのか」という行動規範を考え、さらに「〇〇のときは、△△という行動をする」といった具体的な判断基準などを定めていきます。
一番大事にしている理想を掲げ、それを実現するために必要なこととは何かと、徐々に解像度を上げていくのです。そうすることでマニュアル全体としての統一が取れ、行動内容のブレや矛盾が起こりにくくなります。
関連する法令に準拠すること
コンプライアンスの徹底を図る上で法令遵守は必須です。道徳的な行動に配慮をしていたつもりでも、法律に違反をしていたのでは本末転倒です。
そこで業務内容に絡む法令はよくチェックし、法令上の義務を果たすため、法令への抵触を回避するために役立つマニュアルを作成しましょう。
例えば労働時間を適正に管理することは労働法で求められています。安全衛生管理も必要なことです。ハラスメントの予防に向けた措置も近年企業の義務となっています。
こういった法令で求められていることを、自社は具体的にどうやって実現していくのかよく考えなくてはなりません。
法改正によってルールが変わる・追加されることもありますので要注意です。顧問弁護士を付けていれば最新情報もキャッチしやすくなるでしょう。
自社に合った内容にする
コンプライアンスマニュアルのひな形も探せば見つかるでしょう。しかしひな形やテンプレートをそのまま使ってもあまり効果はありません。そうでなくとも、一般化された、抽象的な内容ばかり記載してはあまり意味がありません。
そこで自社の活動内容、自社の職場環境、消費者や取引先との関係性などを見直して、マニュアルを最適化していくことが大事です。自社の実情と合っていない場合、機能しないルールが多数含まれて必要以上にマニュアルが複雑化してしまったり、過度に負担をかけてしまったり、といった問題が起こり得ます。
記載事項を体系化してマニュアルにまとめる
使いやすい・見やすいマニュアルとすることで、より多くの従業員に見てもらうことができます。この観点からは、乱雑に様々なルールを設けていくだけでなく、ある程度体系化してまとめることが大事といえます。
分野ごとに分け、各分野で大事にしている指針などを最初に掲げるなど、記載方法は各社工夫を凝らしましょう。
作成後の周知と定期的なチェックも大事
コンプライアンスマニュアルが作成できれば、職場に置くだけでなく、確実に全従業員に目を通してもらいましょう。まずは周知徹底に努めるべきです。その上でフィードバックを受ける、質問を受け付けるなどの対応を取ると良いです。
また、いったん作成して終わりではなく、今後も定期的な修正をするつもりで管理していきましょう。実際に運用をしてみて不都合が見つかったときは再度検討し、修正すべきかどうか、どのように改訂すべきか、経営陣やコンプライアンス委員など担当者間でしっかりと話し合うことが大切です。