契約書は安全かつ円滑な企業活動のために重要な文書であり、その内容の妥当性を評価することはリスク管理の観点から欠かせません。契約書に潜む法的リスクを特定し、未然に防ぐためのリーガルチェックは、トラブル回避と円滑なビジネス運営の要となっているのです。
当記事ではそのリーガルチェックの必要性に焦点を当てて、詳しく解説しています。
リーガルチェックとは
「リーガルチェック」とは、契約書等の内容を法的観点から精査し、法令違反や権利・義務関係の不明確さ、将来的なトラブルの原因となり得る条項などを洗い出して修正する作業を指します。
契約書に対するリーガルチェックでは、まず、契約全体の構造と各条項の整合性を確認し、法令違反や社内規定との齟齬がないかを調べていきます。
次に、権利義務関係の明確性、責任範囲の適切さ、リスクの公平性などを検討し、必要に応じて相手方に対し修正案を提案します。また、業界特有の慣行や最新の法改正・判例との整合性も確認対象となります。
重視すべきポイントは取引内容や相手方との関係性などによっても変わってきますが、一般的に重要となるのは「一方に不利な条件が含まれていないか」「将来的な事業展開や状況への変化に対応できる柔軟性が確保されているか」「契約書の文言が明確で解釈の余地を抑えられているか」という点です。
こうした多角的な視点からの検証を行い契約書の法的安全性を高めることで、トラブルの芽を摘み取ることができるのです。
契約書のリーガルチェックが必要な理由
「契約書のリーガルチェックが必要」といえる理由は多岐にわたります。各社の活動内容によってもその必要性の高さは異なりますが、多くの企業に関わる要点を以下にまとめました。
リーガルチェックの必要性 | 詳細 |
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法令遵守の徹底 | ・契約内容が関連法規(独占禁止法や個人情報保護法、下請法など)に違反していないか確認することで、コンプライアンス上のリスクを排除する。 ・法令違反による罰則や行政処分を回避し、企業の社会的信頼性を維持することに寄与する。 |
権利義務関係の明確化 | ・曖昧な表現や意味が明瞭ではない条項は、解釈の相違から紛争を招きかねない。 ・詳細にチェックを行うことで文言の意味、解釈の明確化を図り、当事者間の認識の齟齬を防ぐ。 |
不利な条項の排除・適正化 | ・自社に過度なリスクが偏らないよう、損害賠償の範囲を適正化するなど調整を行う。 ・消費者との契約においては相手方が不利になる条項にも注意。過度に不利な条件を押し付ける条項は無効になるケースがある(「あらゆる事由に対して自社は一切の責任を負わない」と記載する条項など)。 |
社内方針との整合性 | ・企業の経営方針、社内規程との矛盾がないかを確認し、組織全体としての一貫性を保つ。 ・経営理念を反映した活動の実現を図り、社内ガバナンスの強化につなげる。 |
業界特有のルールへの対応 | ・業種ごとに存在する特有のリスクや規制(金融商品取引法や薬機法など)への対応、越境取引における準拠法など国際的な取引特有の問題への対処。 ・業界標準に則った適切な取引関係の構築、および競争優位性の確保を狙う。 |
これらの理由からもわかるように、リーガルチェックは単に法的なミスを防ぐだけでなく、企業戦略の実現や持続的な取引関係の構築にも寄与するものなのです。ビジネス環境が複雑化し、グローバル化も進む現代においては、専門的な視点からの契約書精査の重要性がより高まっているといえるでしょう。
リーガルチェックが特に重要な契約
すべての契約においてリーガルチェックは有益ですが、特に重要性が高いのは企業活動の根幹に関わる契約やリスクが高い取引に関わる契約書です。
たとえば「取引基本契約書」は、個別契約の基礎となる重要な契約書であり、その内容は長期にわたって取引関係全体に影響します。「知的財産に関する契約書」も企業の無形資産を守るうえで欠かせないもので技術力が重視される企業においては特に注視すべき存在といえるでしょう。
また、従業員と交わす「雇用契約書」や、機密情報を扱う際に交わす「秘密保持契約書」も、企業の競争力維持や法的リスク管理の観点からリーガルチェックの必要性が高いといえます。
当然、組織の将来を大きく左右することになる「M&A」のような大型取引においても、より綿密なリーガルチェックが求められます。
リーガルチェックを怠ることによるリスク
リーガルチェックを怠ることは、企業にとって多方面にわたるリスクをもたらします。結果的に何もトラブルが起こらず済むケースもあれば、甚大な損害が発生するケースもあるため、適切にリスク評価を行い必要性の高いと思われる契約から優先的にリーガルチェックを実施していくようにしましょう。
《 具体的なリスク 》
- 法令違反に基づく営業停止等の行政処分や、代表者個人に対する罰金・懲役などの刑罰の適用
- 当事者間での解釈の相違に基づくトラブルの勃発
- 不利な契約条件を見逃すことによって、想定以上の責任を負ってしまう
- 権利保護に係る条項が不十分で、自社のアイデアや技術力、営業秘密が外部に流出してしまう
- 解約条件や手続きが適切に規定されていないことで、相手方が適切に契約内容を履行してくれないときや不誠実な対応を取られたときでも容易には契約解除ができない
- 契約トラブルが訴訟に発展してしまい、勝訴できたとしても企業イメージが大きくダメージを受け、ブランド価値の毀損につながる
海外展開するときはリーガルチェックを怠ったときのリスクがより大きくなってしまいます。現地の法制度についてもよく理解したうえで厳重なチェック体制を整えましょう。
自社で行うリーガルチェックと専門家への依頼との違い
契約書のリーガルチェックを行う方法としては、①社内のリソースを活用して内部で作業を完結させる方法と②社外の専門家に作業を依頼する方法の大きく2つがあります。
①の場合、作業にあたる方が社内事情に精通しており現場のニーズを踏まえたチェックができるという強みがあります。しかし、人的リソースの制約や専門的知見の不足などの問題も存在します。
一方で②の場合、専門的かつ客観的な視点からの評価が得られます。最新の法改正や判例への適切な対応も期待でき、自社では気づきにくいリスクの発見にもつながるでしょう。コスト面での考慮は必要ですが、リスク軽減の効果を考えれば費用対効果の高い投資といえるでしょう。
なお、必ずしも①か②いずれかの方法による必要はありません。日常的な契約は社内で対応して、重要度の高い契約や専門性を要する案件では弁護士を活用するなど、組み合わせて実践していくのが効果的です。