成年後見は、制度を正しく理解して適切な運用ができれば大きな恩恵を受けられる仕組みです。一方でよくわからないまま申し立てをしてしまうと、想定外の事態に悩むことにもなりかねません。
そこで申し立て前には、制度に対する理解を深めておく必要があります。
「とりあえず試してみる」ができない
法定後見制度で意識しておくべき特性のひとつが、「一度始めたら原則として途中でやめられない」という点です。
本人の判断能力が十分に回復したと家庭裁判所に認められる場合など、法律上・運用上の一定の事情がある場合を除いて、制度の利用を途中で終了させることはできません。
不動産の売却や施設入所の手続きという特定の目的のために申立てをしていたとしても、「目的が達成されると終了」とはならないのです。
なお、後見人等の死亡や辞任など支援者側の事情で後見人が交代することはありますが、その場合も家庭裁判所が新たな後見人を選任し、制度の利用は続きます。
一時的な手続きの必要性だけで申立てをしようとしているのなら、本当に今この制度が必要な状況なのか、立ち止まってよく検討しましょう。
後見人の選任は家庭裁判所が行う
「親族を後見人にしたい」と考えていても、希望通りに後見を始められるとは限りません。
後見人を最終的に決めるのは家庭裁判所です。申立て時に候補者を記載することはできますが、家庭裁判所がその希望通りに選任するわけではないのです。
また、希望と異なる人物が選ばれたとしても、そのことを理由に審判に対して不服申立てをすることはできないとされています。
専門職後見人が選ばれやすい
親族ではなく、弁護士や司法書士、社会福祉士などの専門職が後見人に選任される割合は高いです。
新たに選任される後見人等のうち親族以外が約8割を占めるといわれており、特に次の状況にあるときは、よりその傾向が強まると考えられます。
- 本人の有する財産の総額が大きく、管理内容も複雑なケース
- 不動産の登記手続きなど専門的な後見事務が想定されるケース
- 親族間で意見の対立や利害関係の問題があるケース
- 申立てをする親族が遠方に居住しており、日常的な対応が難しいケース
- 本人の財産を後見制度支援信託や後見制度支援預貯金で管理する方針となったケース
※後見制度支援信託:日常生活を過ごす上で通常使わない本人の金銭を、信託銀行等に信託財産として預ける形で保全する仕組みのこと。
※後見制度支援預貯金:日常生活を過ごす上で通常使わない本人の金銭を、金融機関の専用預貯金口座に預ける形で保全する仕組みのこと。
なお、専門職が選任された場合、その報酬は本人の財産から継続的に支払われます。
申立て時だけでなく利用中もコストが継続する
制度の利用にあたっては、「申立て費用だけでなく、その後もコストの発生が続く」という点を認識しておかないといけません。
一般的な目安としては、申立て費用それ自体は後述の報酬等と比べると大きくない場合も多いです。鑑定が求められた場合には鑑定料として数万円~10万円前後の費用が発生しますが、それよりも注視すべきが「後見人への報酬」および「後見監督人への報酬」です。
- 後見人への報酬・・・家庭裁判所が決定(管理財産額等に応じて月額数万円程度)
- 後見監督人への報酬・・・選任された場合にのみ別途発生(月額1,2万円程度)
費用負担が大きく利用が難しいと思われるときは、市町村が実施する「成年後見制度利用支援事業」による助成や、日本司法支援センター(法テラス)の民事法律扶助制度の利用を検討してみましょう。
自治体が独自の支援制度を用意している可能性もありますので、役所の窓口でもチェックしてみましょう。
後見人にできること・できないこと
成年後見人には財産管理や身上保護に関する一定の権限が与えられています。しかし本人に関することが何でもできるわけではありません。
そこで後見人の権限にも次のような限界があるということを知っておきましょう。
- 医療行為に対する同意
→ 手術など医療行為そのものへの同意権まで包括的には成年後見人に認められていない。 - 身分行為の代行
→ 結婚や離婚、認知、遺言などは本人しか行えない。 - 居所の強制
→ 本人の意思に反して居住場所を決めることはできない。 - 直接的な介護・看護
→ 後見人の職務は契約締結や財産管理であり、直接ケアを担う役割ではない。 - 身元保証・連帯保証
→ 後見人が本人の保証人となることは基本的には認められない。
たとえば介護施設への入所契約や医療費の支払いに対応することはできますが、治療方針の決定や手術の同意について、成年後見人が包括的に担う権限はないと理解されています。
また、本人が住んでいる不動産を売却・賃貸・取り壊しするときに後見人の判断だけでは決行できず、事前に家庭裁判所から許可を得なくてはなりません。
以上で説明したとおり、後見制度にも注意すべき点がいくつかあります。
今すぐ成年後見による支援が必要ではないという状況なら、「任意後見制度」を検討することもできますし、「家族信託」や「遺言書の作成」という仕組みもあります。検討を始めるタイミングが早いほど取れる選択肢も多いため、専門家にもご相談いただきながら考え始めることをおすすめします。





