遺言とは、自己の死後に一定の効果が発生することを意図して、死後の財産の処分や分け方などに関する意思をいい、遺言書はその意思を記した書類のことをいいます。
自分の死後、大切な家族が自分の財産をめぐって争うことはとてもつらいことです。遺言書という形で自分の想いを残すことで、このようなトラブルを未然に防ぐことができます。
ただし、遺言書にはきちんとしたルールがあり、法令で定められた通りに記載しなければ、その遺言書は無効です(民法960条)。遺言書を作成するときは作成上のルールをしっかり理解しておくことが不可欠といえるでしょう。
遺言の方式には、普通の方式として自筆証書遺言(民法968条)、公正証書遺言(民法969条)、秘密証書遺言(民法970条)がありますが(民法967条本文)、実際に用いられるのは自筆証書遺言と公正証書遺言です。そこで、以下ではこの2つについて解説していきます。特に、自筆証書遺言は平成30年度の相続法改正で、いくつか従来とは異なる点があるので、よく確認しておきましょう。
■自筆証書遺言
〈概要とメリット・デメリット〉
自筆証書遺言とは、
・遺言の内容となる全文
・日付
・氏名
などを自筆(自分で書くこと)し、これに押印することが求められている遺言のことです(ただし、以下で説明するように平成30年度の法改正で自筆をしなくてよい部分が認められています)。
自筆証書遺言のメリットとしては、
1 自分で好きな時に簡単に作成することが出来る
2 誰にも知られずに作成することが可能で、内容だけでなくその存在自体も秘密に出来る
3 専門家のアドバイスを受けず、保管も自分でする場合、費用はほとんどかからない
などがあげられます。
逆に、従来挙げられていたデメリットとしては、
1 法令で定められた形式の不備により無効になる恐れがある
2 保管の方法によっては、遺言書が紛失したり、発見されなかったりする可能性がある
3 保管の方法によっては、他人によって隠匿・破棄されたり、偽造・変造されたりするおそれがある
4 家庭裁判所での検認手続きが必要となる
などがあげられます。
自筆証書遺言は簡単かつ費用をかけずに作成できるので、多くの方がこの方式で作成していました。他方で、形式不備等により遺言書が無効となってしまうケースが少なくなく、トラブルの原因となっていました。そのため、我々法律家は後述の公正証書遺言で作成することをおすすめすることが一般的でした。
しかし、平成30年度の相続分野の改正により、上記に挙げた自筆証書遺言のデメリットの多く(2~4について)が改善されることになり、より使い勝手が良くなりました。以下で改正点について解説します。
〈自筆証書遺言に関する改正点〉
・自筆証書遺言の方式緩和
・自筆証書遺言の保管制度の創設
の2つです。
・自筆証書遺言の方式緩和
これまで自筆証書遺言は前記の通り、全文、日付、氏名の全てを自筆で記入することが求められていましたが、ご高齢や病気などで自筆で全文を作成することが困難な場合や、相続財産が多い場合などでは作成するのに大きな負担となっていました。
このため今回の法改正により、添付する財産目録については、パソコンで作成したものや、代筆、さらには不動産の登記事項証明書、預貯金通帳の写し等を添付することも認められるようになりました(ただし、遺言者本人の署名押印が必要)。なお、誰にどのような財産を相続するかについて記載した遺言書の本文については、これまで通り自書であることが必要なので、注意しましょう。
この制度は2019年(平成31年)1月13日から施行されます。
・自筆証書遺言の保管制度の創設
2つ目について、前記の通り、遺言書の紛失・改ざん等のリスクがあり、また家庭裁判所の検認手続きが面倒というデメリットがありました。今回、「法務局における遺言書の保管等に関する法律」(遺言書保管法)が制定されることにより、公的機関(法務局)で遺言書の原本を保管できる制度ができ、紛失・改ざん等の恐れがなくなるほか、家族が遺言書の有無を簡単に確認できるようになり、また裁判所の検認手続きが不要になります。
この制度は2020年(令和2年)7月10日から施行されます。
なお、これらの法改正がなされたところで、自筆証書遺言には形式不備等による無効となるリスクが依然とありますので、遺言書の作成の際は、弁護士等の法律専門家のアドバイスを受けながら作成することをおすすめします。
■公正証書遺言
公正証書遺言は、遺言をする人が公証人に遺言内容を口頭で伝え、公証人がその遺言内容を文章にして遺言書とするものです。なお、公正証書遺言自体に平成30年度の法改正による影響はありません。
公正証書遺言の方式で遺言書を作成する場合、
1 証人二人以上の立会い
2 遺言者が遺言の趣旨を公証人に口授
3 公証人が遺言者の口授を筆記
4 公証人が筆記したものを遺言者および証人に読み聞かせまたは閲覧させる
5 遺言者および証人が、筆記の正確なことを承認した後、各自署名・押印(遺言者が署名することが出来ない場合は、公証人の付記と署名に代えることができる)
6 公証人が、証書が方式に従って作ったものである旨を付記して署名・押印
が必要となります(民法969条)。証人には、家族等はなれないため(民法974条参照)、信頼できる友人に頼んだり、相続の専門家である弁護士等に依頼したりすることが必要になります。
公正証書遺言のメリットとしては、
1 専門家である公証人が関与するため、形式不備等で無効となるリスクが低い
2 遺言書の原本を公証役場で保管してもらえるので、紛失・隠匿等のリスクがない
3 検認手続きが不要で、遺言内容を直ちに実現できる
4 字を書くことが出来ない人も利用可能
などが挙げられます。
逆にデメリットとしては、
1 作成の際に手数料がかかる
2 証人を確保する必要があるなど、多少の手間がかかる
3 遺言の存在と内容が外部に知られてしまうおそれがある
などが挙げられます。
このようなメリットがあるため、一般的に遺言書を作成する場合は、公正証書遺言で作成する方が安全で確実であるとされています。平成30年度の法改正で自筆証書遺言もより利用しやすくなりましたが、形式不備等による無効のリスクが依然としてある以上、やはり公正証書遺言で作成する方がよいといえるでしょう。
公正証書遺言で作成する場合でも、作成する際は弁護士等の法律専門家に相談することをおすすめします。公証役場では書類の書き方などについては教えてくれますが、相続人間のトラブルを防ぐ、適切な内容での作成方法については教えてくれません。相続分野に強い弁護士等からアドバイスを受けることで、トラブルが起きるリスクを極限まで減らすことができます。
弁護士 熊谷考人(中日綜合法律事務所)は、愛知県・三重県・岐阜県を中心に相続・遺言に関する初回相談無料で承っております。相続・遺言に関する様々なお悩みに対応しているので、相続・遺言でお困りの際は当職までお気軽にご相談下さい。
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